葛飾区史

第5章 暮らしの移り変わり


第3節 都市近郊の農村

■前栽場の暮らし :【ヤリサキ(競売)の開始】

 千住市場のヤリサキ(競売)が始まるのは午前6時なので、農家はできるだけ早く市場へ行って青果問屋の前で待ち、青果問屋の準備ができた後すぐに競って小カブを目立つ所に並べて置いた。「市場の荷は場所を当てろ」といって、荷を置く場所によって値段が上下すると考えられていた。
 夫婦で市場に行ったときには、荷を並べ終わると妻はまだ都電の早朝割引のある時間に都電と電車を乗り継いで帰った。夫の方は、ヤリサキを終えてから朝飯を市場近くの食堂などで食べ、2台のリヤカーを重ねて1台にして運んで帰ってくる。ヤリサキの売上金は「シキリ」と呼ばれていて、青果問屋の職員が代金を記したシキリ帳と呼ばれる帳面に基づき精算し、2、3日分をまとめて払ってくれる。
 この間に市場から家に戻った妻は家でそそくさと朝飯を食べ、家族にも飯を食べさせてから、畑に出て次の日の出荷に備えて小カブを畑から抜き、新たな荷を作る。
 小カブの出荷の準備は梱包に手間が掛かる。畑から小カブを抜いて水できれいに洗い、黄ばんだ葉を取り除き、丁寧に丸めて結束し、どんどん籠に詰めていく。屋敷地の中に小カブを洗う水槽があり、そこに井戸水を溜め、コウリャンの葉を丸めてたわしのようにしたものを使ってきれいに洗った。小さな小カブは7つ、大きなものは5つを一束としてわらで縛り、籠の中に入れていく。この作業が夕方まで続いた。