第5章 暮らしの移り変わり
第3節 都市近郊の農村
■前栽場の暮らし :【女の役割】
田場所では女は炊事、洗濯や子育てなどの家事を行い、力仕事などはあまりしなかった。ところが前栽場では女でも容赦なく下肥の桶を担がされた。下千葉町に嫁に行くことが決まったときに、花嫁修業の1つとして肥桶に水を入れて担ぐ稽古をして腰を痛めてしまった。
男は日が暮れれば仕事はおしまいだが、女はそれから子育てや炊事などの家事をこなさなければならない。男が寝てしまった後に着物の繕い作業をして、夜なべになることも多かった。前栽場の農家にとって女性の労働力は重要であった。「男が働き、女が家を守る」というように男女の役割がはっきりと決まっていたのが田場所だとすると、前栽場は「女も男と同じように最前線で働く」ことが特色であった。そのため家事には工夫が必要で、例えば子育ての面でも、忙しい時期には畑に乳飲み子を連れていくことも多い。手が掛かる授乳をなるべく早くやめたいという意識から、生まれてから一年もたたないうちに離乳させたという人もいた。
小カブの出荷の時期は、家の食卓に毎日小カブが上がった。おかずは小カブの煮付け、味噌汁の実も小カブ、おしんこも小カブであったという。前栽場の農家はハネダシと呼ばれた規格外の大きさのものや割れてしまって市場に持って行けない野菜を自分の家で食べ、良いものを出荷するという考え方があった。そのため、小カブの出荷の最盛期には、おかずが小カブばかりということになってしまった。これに対して野菜を市場に出荷することがあまりない田場所の農家では、丹精を
こめて家の畑で作ったおいしいものを家で食べていた。前栽場では、品質の良い野菜はみな市場に出すのが当たり前で、家ではハネダシを食べるのが常であった。例えば糸三つ葉なら畑の隅で育った固くておひたしにしてもおいしくないものを食べた。ネギならば日陰で育ったようなひょろひょろとしたものを食べていた。
小カブの出荷は4月上旬から5月10日頃まで続く。出荷時期の終盤になると疲れがたまって市場からの帰りにリヤカーを引きながら居眠りすることもあった。あるいは疲れすぎて眠れなくなる日が何日も続いたという経験もした。