葛飾区史

第5章 暮らしの移り変わり


第3節 都市近郊の農村

■際物作り :盆の草物作り

 草物とは盆や正月に使われる縁起物に付属するうらじろ、だいだい、ゆずり葉などの飾り物の総称である。足立区千住河原町では、東京都心で盆が行われる7月13日に先駆け、10日の夕方から翌日の明け方にかけて、盆行事で使われる盆ござ、ほおずき、牛馬の飾り物などを売る市が開かれていた。青戸町や下千葉町の農家では、この市に向けて盆の草物を作って売りに出ていた。市の起源ははっきりしていないが、天保年間(1830〜1844)に成立した『東都歳時記』には、江戸の草市として吉原仲の町、深川櫓下、小石川伝通院前、本所四ツ目、根津門前の草市が紹介されている。
 草市に出荷する草物作りは、農家の中でも主要な働き手でない老人たちが行うもので、野菜作りを大規模に行っている農家や、反対に働き手のない農家ではやらなかった。まとまった草物の荷はそれぞれの農家が荷車などで千住へ持って行き、千住の土手といわれる墨堤通りから旧日光街道と並行している通りで仲買人とさし向かいで売っていた。また、同じ日には千住の市場でも草物を扱う市が開かれるため、集まった荷の様子を見て、土手の上で売るか市場へ出荷するかを判断したという注釈1

千住の草市
戻る時は右上の×をクリックしてください




注釈1:荻原ちとせ 「都市近郊農村の市について」(『江戸年中行事と際物』葛飾区郷土と天文の博物館 平成7〔1995〕年所収)。