葛飾区史

柴又の三匹獅子舞(葛飾区指定無形民俗文化財)


 柴又の八幡神社の祭礼には三匹獅子舞が奉納される。八幡神社の祭礼は、かつては10月15日と決まっていたが、現在では10月の日曜祭日を話し合いで選んで行われている。また祭礼に先立って4日間ほど稽古が行われている。
 三匹獅子舞は関東地方に非常に多く分布している民俗芸能である。大獅子、中獅子、子獅子の三頭の獅子が登場し、立ち姿で舞うものである。この舞いはかつて柴又に代々住む家の長男だけが舞うことを許されたものであった。舞を舞うことは舞い手にとって誇りであり、とくに「納めの舞い」と呼ばれる太刀掛かりの舞いの大獅子を務めることは大きな誇りであった。現在は小学生から成人まで広い範囲の年齢層の人たちが舞いに参加している。
 また、獅子頭は門外不出のものとされ、柴又八幡神社の鳥居の外には出してはいけないというきまりを固く守っているが、臨時に行われる道饗祭と呼ばれる行事では三匹の獅子が外に出て柴又の平穏を祈祷することがあった。また、大正13(1924)年に國學院大学の依頼を受け、とくに大学に赴いて久邇宮親王の閲覧を受けたことがあった。
 祭りが終わると拝殿に大切にしまわれるが、年に一度7月の虫干しには保管箱から出されて役員たちによって点検されている。
 
(1)獅子頭を巡る伝承
 各地の三匹獅子舞はその地域ごとにさまざまな祈願を込めて行われているが柴又の三匹獅子舞も獅子頭や舞いの由来についていくつかの伝説がある。
 ① 流しても流れなかった獅子頭  
 三匹獅子舞の獅子頭は、柴又の名主の家の蔵に保管されていたが、どうしたことか蔵の米が減ってしまう。「これは獅子頭が米を食うのだ」と思った名主は、怒って獅子頭を江戸川に流すことにした。
  ところが何度流しても元の場所に戻ってきてしまう。これは獅子頭に不思議な力があるのだと思った名主を始め柴又の人たちはこの獅子頭を「神獅子」として大切に祀ることにしたという。
 ② 火事で燃えなかった獅子頭  
 「神獅子」として名主の蔵から柴又の寺院である真勝院に保管場所をかえ、しばらくしたところ、真勝院が火事になってしまった。ところがさまざまなものが消失したなかで獅子頭だけは燃え残った。これを見て柴又の人たちは獅子頭にますます霊力を感じ、いっそう大切にするようになった。
 ③ 獅子頭の霊力  
 獅子舞が終わると「かぶりかえ」と呼ばれる休憩所に獅子頭を被った人たちが戻るが、このときに子どもを連れたたくさんの人たちがここにやってくる。これは子どもの頭を獅子に噛んでもらうことによって子どもが丈夫に育つと考えられていることによる。
 また、舞いを舞っているうちに獅子頭の羽が取れてしまうことが時々あるが、その羽を人々が争うように貰っていく。この羽は厄除けのまじないになると考えられている。

(2)舞いの次第
 獅子舞は祭礼の午前中に関係者が参集し、「かぶりかえ」と呼ばれる場所で献餞舞の準備が行われる。献饌(けんせんの)舞(まい)は、御前(ごぜん)舞(すい)とも呼ばれる。道を清める猿田彦を先頭にして、万灯を持った人が次に従い、次いで三匹獅子、笛が続く。それに次いで献饌を持った神社の役員たちが歩く。役員たちは昇殿し、神職とともに式典が行われる。その間、猿田彦と万灯・笛・三匹の獅子は拝殿の周りを回って警護し、次いで舞いの庭に移る。
「舞の庭」とは3.82m四方に作られた板敷の場所で、これから午後8時にわたって行われる三匹獅子舞はここで行われる。
 また、獅子頭の名称は「大獅子(おおじし)」「中獅子」「子獅子」と呼ばれ父・母・子の獅子であると擬人的に考えられている。子獅子は小獅子もしくは雌獅子とも呼ばれるがここでは「子獅子」とする。
① 花掛かり、花回り羯鼓、飛び羯(かつ)鼓(こ)  
 花掛かりは三匹の獅子が花万灯を中心に舞う。花回り羯鼓は、大獅子と中獅子が小獅子を奪い合う舞いである。飛び羯鼓は万灯を中心に三匹の獅子が舞う。
② 笹掛かり  
 大きな笹竹が大獅子中獅子と子獅子の間に入り、大獅子と中獅子がそれを取り除こうとする所作をする。笹を二頭の獅子がかみ合うものでこれを「かみかえし」と呼んでいる。
このあと花掛かり、花回り羯鼓が再び回れる。
③ 弓掛かり・帰り羯鼓  
 まず大獅子が赤、青、白の紙片が付いた五本の矢を取りに行く所作をする。ついで弓を取りに行く。このときに大獅子は頭上に矢、弓を頂く所作をする。
 このあと大獅子が鬼門(北東)と裏鬼門(南西)、中獅子は乾(いぬい)(北西)と巽(たつみ)(南東)に向って矢を射かける。最後に大獅子が天井に向かって矢を放つ。かつては矢が魔除けになると言って奪い合うようにして見物人が持ち帰った。弓掛かりのあと返り羯鼓が舞われる。
④ 綱掛かり  
 笹掛かりと同様に綱を中心に三匹の獅子が舞い、綱を取り除こうとする所作をする。
⑤ 太刀掛かり  
 弓掛かりと同じように、大獅子が5本の御幣を頂き、大獅子が鬼門と裏鬼門、中獅子が乾と巽の方向に投げ、最後に大獅子が空に投げる。
 そのあと大獅子は刀を頂き、刃元と峰を一瞥した後、十文字に切り下す。