葛飾区郷土と天文の博物館
かつしか天文セミナー

人間と宇宙〜無重力下で起こる体の変化〜
地球上のすべての生物は、重力があることを前提に進化し、身体が作られてきました。人間の身体が無重力にさらされるとどうなるのか?本当に宇宙に行くことは安全なのか?そのようなことを医学的な側面から考えていくのが宇宙医学です。これまでの宇宙医学研究の成果や課題について解説していただきました。

日時・講師


講演会のようす

 はじめまして、帝京大学脳神経学科の上野です。
 今日は、宇宙での無重力の環境で人間の身体がどうなるか、ということをお話します。

 私は中学高校の頃から宇宙が大好きでした。
 今は脳神経外科の専門家として、NASAやJAXAで宇宙医学の仕事をしてきました。


 1950年代後半から、アメリカと当時のソビエト連邦がさかんに宇宙開発の分野で競いあいました。
 その中で、無重力状態が宇宙飛行士に及ぼす身体への影響の研究も進んできました。
 地球上の生命は、重力があることが前提となって進化していますから、無重力になると様々な問題が起きるのです。


 宇宙飛行士の半数は宇宙酔いにかかります。
 原因ははっきりわかっていませんが「体液シフト説」と「感覚混乱説」の2つが有力です。
 この宇宙酔いには酔い止めの薬が効くことがわかっています。
 宇宙酔いは、スペースシャトル全盛時代は非常に大きな問題でした。しかし2週間程度で慣れるので、長期間滞在する宇宙ステーションではあまり大きな問題ではなくなりました。


 骨を強くするには重力が必要です。
 地球に帰還してからも、すぐには回復せずに減りつづけることがわかっています。


 重力が無いと筋肉が衰えます。それを防ぐため、宇宙飛行士は運動をしているのです。


 無重力では体液が上半身に移動するため、顔がむくみます。


 無重力になって最初の数日でたくさんの尿が出て脱水状態になります。


 地上に戻ってくると、宇宙飛行士は立ちくらみがしてすぐには立ち上がれません。
 失神することもあるため、着陸の操縦などに大きな影響があります。
 そこで宇宙飛行士は、戻る数時間前に食塩の錠剤と水を2リットルほど飲んで、身体の中の血液を増やして失神を防いだりしています。
 これらの症状は、身体が無重力に適応しているともいえます。


 宇宙飛行士が船内でトレーニングをするための装置です。
 下半身の箱の中の圧力を低くして、下向きの力を作り出し、その中で走ることができます。


 装置の効果を確かめるため10組の一卵性双生児に協力してもらいました。
 寝たまま生活してもらい、ひとりは運動をせず、もうひとりは装置で運動をします。
 30日間で、身体の機能がどうなっているかをしらべました。
 骨密度の低下率が、運動しないと−2.5%なのに、運動すると−1.1%で済むことがわかりました。
 この装置は今研究中ですが、最終的には宇宙飛行で使われるようになるかもしれません。
 特に火星ミッションは到着までに半年かかる上、火星に着陸する時にある程度の衝撃があるので、筋力を維持することは非常に重要なことです。


 重力が無いと、椎間板がそれぞれ1mm程度伸び、背骨の曲がりが少なくなるので、5〜7cm身長が伸びます。これにより、背中の痛みを訴える宇宙飛行士もいます。


 宇宙ステーションでは昼夜の周期が90分です。人間は光に反応してホルモンを出したりするので、この変化は睡眠や精神にトラブルを起こします。


 宇宙船は打ち上げの都合上軽量に作られています。そのため、宇宙での放射線をしっかり防ぐことができません。
 火星ミッションでは、地上で一生涯に浴びる宇宙放射線の数倍を浴びることになるため、若い宇宙飛行士は選ばれないかもしれません。
 今後の太陽系有人探査においても、この放射線の問題は重要視されるはずです。


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